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TSHが低いと言われたら

TSH(甲状腺刺激ホルモン)の検査について

ホルモンとは、体内で特定の臓器や器官から分泌され、離れた部位に作用して様々な生理機能を調整する物質のことを指します。その中でも甲状腺ホルモンは、私たちの生命活動に深く関わる重要なホルモンの1つです。
甲状腺は、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の指令を受けて、トリヨードサイロニン(T3)およびサイロキシン(T4)という2種類のホルモンを分泌します。血液中では、T3およびT4の多くはタンパク質と結合して存在しますが、実際に生理作用を担っているのは、結合していない遊離トリヨードサイロニン(FT3)と遊離サイロキシン(FT4)です。
甲状腺機能を評価する際には、主にTSH、FT3、FT4の3つのホルモンの値を測定します。
それぞれの単位は、TSHはμIU/mL(マイクロ国際単位/ミリリットル)、FT3はpg/mL(ピコグラム/ミリリットル)、そしてFT4はng/mL(ナノグラム/ミリリットル)で表されます。これらの数値が基準値よりも高い、あるいは低い場合、その上下の組み合わせや変動パターンを総合的に読み取ることで、甲状腺の病態を推定する手がかりとなります。
一般的に、TSH値が低い場合は甲状腺機能亢進症を示唆するとされていますが、必ずしもそれだけで診断が確定するわけではありません。実際、私たちの臨床現場では、一時的なTSH低下が認められるケースもあり、その原因として以下のようなものが考えられます。

  • 一部のサプリメントの摂取
  • ウイルス感染や体調不良
  • 薬剤の影響

そのため、患者様の症状、生活背景、病歴、他の血液データなどを丁寧に確認しながら、慎重な診断が求められます。場合によっては、追加のホルモン検査や画像診断、問診の深掘りが必要となることもあります。
当院では、最新の迅速検査機器を導入しており、原則として30〜40分ほどで検査結果をご説明できる体制を整えております。体調の変化や不調を感じた場合には、早めにご相談ください。

なぜ甲状腺疾患では血液検査が欠かせないのか

甲状腺の異常は、自覚症状が乏しいまま進行することが多く、突然体調に異変が現れることもあります。甲状腺は、脳(下垂体)からの指令に基づいてホルモンの分泌量を調整しており、この指令が出たり止まったりすることで、血液中のホルモン濃度は常に一定に保たれる仕組みになっています。
しかし、甲状腺に炎症や腫瘍、自己免疫による異常などが起きると、このホルモンバランスが崩れます。その変化を客観的に捉えるのが、血液検査です。
血液中には、以下の2種類のホルモンが存在します。

  • 甲状腺ホルモン(FT3・FT4):代謝を調節する作用を持つ
  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH):甲状腺へ分泌の指令を出すホルモン

この両者を同時に測定することで、甲状腺そのものの異常か、脳(中枢)側の異常かといった鑑別も可能になります。

TSHだけが低値の場合に考えられる疾患

バセドウ病の可能性

甲状腺疾患の評価においては、血液検査によるホルモン測定が重要な役割を果たします。甲状腺では、トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)という2種類のホルモンが作られており、このうち生理作用がより強いのはT3とされています。T4は甲状腺から分泌された後、肝臓や腎臓などの末梢組織でT3へと変換され、全身の代謝調節に関与します。
これらの甲状腺ホルモンは、血液中では主にタンパク質と結合した状態で存在していますが、実際に全身へ作用するのは、結合していない遊離型ホルモンです。
甲状腺ホルモンの分泌は、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によってコントロールされています。TSHが甲状腺の受容体に結合することで、T3およびT4の合成と放出が促されます。
一方で、血液中に放出された甲状腺ホルモンが増加すると、TSHの分泌は抑制されます。このように、ホルモン同士が相互に分泌量を調節し合う仕組みはネガティブ・フィードバックと呼ばれ、体内のホルモンバランスを一定に保つために不可欠な機構です。
血液検査では、TSH、T3、T4の値を同時に確認し、それぞれの関係性から甲状腺の状態を読み取ります。
その結果、甲状腺ホルモン値が高く、TSHのみが基準値を下回っている場合には、バセドウ病による甲状腺機能亢進症が疑われます。診断にあたっては、自覚症状の有無だけで判断するのではなく、血液検査による客観的な評価が不可欠です。

バセドウ病とは

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される代表的な甲状腺機能亢進症として知られています。
この疾患は自己免疫疾患に分類され、本来は細菌やウイルスなどの外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の臓器や細胞を攻撃してしまう病態を指します。
通常、下垂体から分泌されるTSHが、甲状腺ろ胞細胞に存在するTSH受容体に作用することで、甲状腺ホルモンの分泌が調節されています。しかしバセドウ病では、TSH受容体に対する自己抗体が体内で作られ、この抗体がTSHの代わりに受容体を刺激し続けます。その結果、TSHによる制御とは無関係に甲状腺が持続的に刺激され、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態が生じます。
現在のところ、TSH受容体に対する自己抗体が産生される明確な原因は解明されていません。ただし、バセドウ病を発症しやすい体質を持つ方において、以下のような要因が引き金となる可能性が指摘されています。

  • 強いストレス
  • ウイルス感染
  • 妊娠や出産などのホルモン環境の大きな変化

これらが複合的に関与し、免疫バランスが崩れることで、発症に至ると考えられています。

甲状腺機能検査から読み取れる甲状腺疾患と診断指標

甲状腺疾患 TSH FT4 FT3 補助検査・所見
バセドウ病 ・TSAb(甲状腺刺激抗体)
・TRAb(抗TSHレセプター抗体)
・放射性ヨウ素摂取率の上昇
中毒性結節(プランマー病) ・超音波検査(結節性甲状腺腫)
・シンチグラフィーによる機能評価
無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎 ・TSAb
・TRAb(いずれも陰性)
・CRP(C反応性蛋白)の上昇・放射性ヨウ素摂取率の低下
潜在性甲状腺機能亢進症 ・TSAb
・TRAb
原発性甲状腺機能低下症(橋本病など) ↓→ ↓→ ・TPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)
・TgAb(抗サイログロブリン抗体)
潜在性甲状腺機能低下症 ・TPOAb
・TgAb
中枢性甲状腺機能低下症 ↓→ ↓→ ・TRH負荷試験
・MRI
不適切TSH分泌症候群(SITSH) ↑→ ・T3受容体遺伝子検査
・TRH負荷試験
・下垂体MRI
低T3症候群 ↑→↓ 明らかな基礎疾患の存在